マーケティング・リサーチ

アジア最大級のデザイン見本市「DESIGN SHAGHAI2024」レポート

中国
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2024年6月19~22日、アジアで最大規模のデザインの見本市「DESIGN SHANGHAI(設計上海)2024」が上海万博跡地エリアに位置する「上海世博展覧館」で開催され、40の国と地域から600以上のブランドが参加しました。ビジネスマンだけでなくアート展感覚で見学に来る若者層も多く、一般消費者層への深い浸透度もうかがえる展示会でした。また、「可持続設計峰会(サスティナブルデザインサミット)」も同時開催され、国内外の業界関係者、有識者が登壇し、「デザインが構築するサスティナブルな未来」をテーマに講演を行いました。ブースや展示物にも環境配慮や天然・ナチュラル、リラックスなどをテーマにしたものが多かった印象でした。今回の展示会を5つのポイントでご紹介します。

1【エコ、自然、アースカラー】
 リラックスに訴求するデザイン

コロナ以降、中国では「松馳感(チル/スローダウン/リラックス)」が流行語に。インテリア、旅のスタイル、音楽、食べ物などにも「松馳感」が取り入れられています。今回の展示会でも、環境素材を取り入れたリラックスできるプロダクトが多数出展しており、市場の注目度の高さが感じられました。

エコ素材のリラックス家具

段ボール製の家具、売り場ディスプレイなどの素材を扱う「ostuni」や、ペットボトルを再利用した繊維でつくられたペット用家具(ベッド、ハウスなど)の「oloil」など、エコ素材の家具、雑貨などが注目を集めていた。また、ここ数年注目を集めている杭州のアーティスト、Cindy Wuのきのこのオブジェ、家具など、自然界への没入感を味わえるようなプロダクトも注目を集めた。

自然をモチーフとしたアースカラーのトレンド

中国の展示会は一般的に奇抜なオブジェや電飾、原色を使ったデザインのブースが多いが、今回のDESIGN SHANGHAIでは木や土、森などを思わせるアースカラーのブースがトレンドとなっていた。国内ベンチャーの家具メーカー「WHYGARDEN」(2020年創業)など行列ができるブース多いのが印象的であった。

2【EV×中国らしさ】
 「香り」のデザインが進化中

街の中で見かける自動車のほぼ半分がグリーンナンバー(新エネルギー車の目印)というEV先進都市・上海。一方でここ数年、若者層の間では気分転換、リラックスなどの目的でルームフレグランスがブーム。この二つを融合させたユニークな商品が注目を集めています。

「DAILY LAB」のカーフレグランス

深圳のメーカー「DAILY LAB」は、アロマキャンドル、ルームフレグランス、お香、アロマディフューザーなどを扱うインテリアフレグランスブランド。今回の展示会では、新商品としてEVカー専用のフレグランスを展示。テスラと共同開発した「Tesla系列」は、車内のインテリアにマッチするデザインと、「治癒」をテーマにした自然な香りが売り。「白桃烏龍茶」「柑橘想泡茶」など、フルーツやお茶など中国らしいオリジナルの香りを揃えている。

フレグランス市場の盛り上がり

中国ではコロナ以降、部屋で過ごす時間が増えた時期にフレグランスブランドが増加。その後も、ストレス解消やリラックス、「模様替えほどの労力不要で部屋の雰囲気を変えられる」などの理由でルームフレグランスやアロマキャンドルの需要が上がっており、さまざまな国内ブランドがブースを出していた。どのブランドも、お茶や竹、樹木、花など中国らしいナチュラルな香りを揃えているのが特徴となっている。

3【日本のクラフトをテーマにした新たな試み】
 「BEYOND CRAFT JAPAN」

今回で11回目となる「DESIGN SHANGHAI」ですが、上海で開催されるほかの見本市に比べ日系企業の参加が少ない印象でしたが、今年は初の日系ブランドを集めたブース「BEYOND CRAFT JAPAN」が登場。クラフトをテーマにした内容が注目されていました。

文化の相互理解と新たなデザイン

テーマカラーは桜色。和紙や布、木などを用いた、これまでの展示会の「日本館」とは一味違うブースが印象的。館内の各ブースとも、日本の職人の技や日本ならではの感性、色彩と素材を紹介しながら中国文化との相互理解を深めること、そこから今後のデザインのアイデア、インスピレーションにつなげることなどがテーマになっており、文化交流の場としても賑わいを見せていた。

日本と中国の「美」の相互理解

「POLA ORBIS HOLDINGS Inc.」は、「美を紡ぐ(YouTubeが開きます)」をテーマにしたブースを出展。日本と中国に共通する美意識を、中国のクリエイターと日本の伝統工芸作家たちと協働して形にした作品を紹介。向きを変えると桜からハスの花へと形を変える木工の器など、職人の技と日中の美意識が融合した作品が展示され、多くの来場者を惹きつけていた。

これからの3Dプリントプロダクト

積彩」は、見る角度によって色が変わる3Dプリントの技術を生かしたインテリア、アクセサリーを制作するメーカー。独自の技術が大きな注目を集め、全600以上の出展者による数千点の作品から30点だけに贈られる「Design Shanghai Picks」に選ばれていた。

日本の伝統工芸品に注目

BEYOND CRAFT JAPAN」のキュレーターを務めた周昕さんが、埼玉県比企郡小川町を訪れた際に興味を持ったという久保製紙の和紙や、西陣織を加工したポーチやアクセサリー、金箔細工(自然の葉脈に金箔を貼ったゴールドリーフ)、京都の表具屋の職人による銀箔のアートパネルや屏風、京都の陶磁器など、日本の職人の技術を伝えるブースも期間中注目を集め、商談の引き合いが多かったという。

4【自国文化への注目】
 中国国内の伝統デザイン

上海などの都市部では近年、雲南省、貴州省、チベットなどの文化がファッション、食、ライフスタイルに影響を与えています。自然と共生し、昔ながらの健康的で理に適った生活やデザインが注目を集めています。

少数民族の手工芸を未来に

ヨーロッパでテキスタイルに関わってきた程詩儀氏が立ち上げた「Craft+」は、ただのメーカーではなく「国際民芸設計プラットフォーム」。国内26省の160以上の手工芸を研究しているという。今回の展示では、雲南省などに住む少数民族の織物をメインとした手工芸をイノベーションへとつなげる役割を果たすべく、伝統的でありながら未来を感じられる作品を紹介した。

チベットのデザインをインテリアに

チベットの山岳地帯に住む人々のライフスタイルや芸術的なインテリアの魅力を、都市部の人に伝えたいというコンセプトのインテリアブランド「CHANGPHEL」は、職人の仕事場をそのままブースに。インテリアファブリックが織られていく様子に見入る人も多く、人だかりができる人気だった。伝統的なトラのデザインのほか、さまざまな図柄をオーダーメイドで注文することができるという。

若い国内デザイナーの作品が一堂に

インテリア雑貨や陶磁器、カトラリー、アクセサリーなどを手掛ける若手デザイナーの作品を一堂に集めたブース「neooold(新開物)」も話題に。来場者とデザイナーが直接交流できる場になっており、その場で作品がどんどん売れていくブースも。中国らしい感性を感じるオブジェやインテリア陶器などもあり、海外からの来場者の興味も引いていた。

5【ユニークなテック素材】
 サスティナブルな素材と3Dプリントの活用

廃ペットボトルなどのリサイクル素材を使ったもの以外にも、ユニークな原料が注目されたブースも多数出展していました。また、家具、雑貨などは3Dプリンターを使って製造されたものが目立っていました。

果物の皮を原料にしたプロダクト

PEELSPHERE」は、柑橘やバナナ、葡萄などの果物の皮をメインに、抽出後のコーヒー豆、海藻など100%植物性のリサイクル素材を使って合皮風インテリアファブリックや靴、カバンなどを製造しているメーカー。革とそっくりなデザインの数々に多くの来場者が惹きつけられていた。プロダクトはすべて繰り返し加工して使うことができ、加工時も排出されるゴミはゼロ。ノベルティなどのオーダーメイドも受け付けているという。

3Dプリンター製の雑貨や家具

インテリア用のオブジェや椅子、テーブルなどの家具まで、国内外のさまざまなメーカーが3Dプリンターを使って製造した商品を展示していた。廃プラなどの素材やプリント技術、デザイン性などアプローチはさまざま。実際に手に取ったり座ったりと、3Dプリンターが生み出すデザインは多くの来場者の興味を惹いていた。

DESIGN SHANGHAI 2024 視察所感

「DESIGN SHANGHAI」は、家具やインテリアなどの業界関係者だけでなく「純粋にデザインを楽しみたい」という一般来場者も多い展示会で、期間中の微信のモーメンツにはデザインに関わる多くの方が「行ってきた!」という投稿を複数アップしていました。一般層に浸透している展示会だからこそ、上海に住む一般中国人のニーズやトレンドが反映される内容だったと思います。上海市内のほかの展示会に比べ日系企業の出展が少ない「DESIGN SHANGHAI」ですが、今回から始まった「BEYOND CRAFT JAPAN」の試みなどを通して、マーケティングリサーチで得られるものとは異なる「生の声」が聞ける貴重な機会と感じました。会場内では、未来感のあるハイテクなデザインよりも、リラックス、自然回帰、緊張感を解くような遊び心のあるデザインが注目を集めており、キーワードはやはり「可持続(サスティナブル)」で、このワードを掲げるブースが多く、中国やアジア全体での環境意識の高まりを感じました。

TNCアジアトレンドラボを運営する、株式会社TNCでは各国の主要な食展示会の視察ツアーを行っています。また今回ご紹介した上海の動向や「DESIGN SHANGHAI」に関する質問やお問い合わせもお気軽にお問い合わせください。