「黒輪」をカフェ的な雰囲気で
楽しめるなど新形態が続々と登場
「黒輪」とは長い棒状の魚の練り物のことで、台湾語で「Oren」と発音する。日本語の「おでん」に似た発音のその名の通り、おでんの具として入っていることもあり、台湾ではポピュラーな食べ物である(台湾元で一本10元(日本円約45円)程度)。「旗魚(カジキ)」を使った「黒輪」は、その場で揚げて塩コショウで味を付ける屋台料理として、南部ではおやつにも食べられている。
この「黒輪」を新しいスタイルで楽しめる店が「山壹旗魚食製所」。2022年に修復され、約8ヶ月かけて新たな市場として再生した「鹽埕第一公有市場」で営業している。2022年に行われた台湾クリエイティブエキスポの一環として修復されたこの市場は、肉や野菜、惣菜などを売る伝統的な市場と異なり、レトロな雰囲気の中で、若者が新しい発想でグルメや雑貨などを作り出している。現在台湾では、伝統食を新しい形態で提供することがトレンドとなっている。屋台で売られているものをカフェ的にアレンジし、ドリンクも一緒に販売するなどして、屋台でアフターヌーンティを楽しんだり、お酒と一緒に伝統食をいただく、といった新しいスタイルが特に若い世代に人気。「山壹旗魚食製所」は、台湾式のアフターヌーンティを提供する思考で、近くのカフェでオーダーしたものを持ち込んで「黒輪」と共にいただくことができる。その場で揚げるカジキの「黒輪」にシューマイなどが美しく盛られている。写真の盛り合わせは台湾元100元(日本円約450円)。
高雄市政府による後押しを受け、
伝統食をアレンジして提供する場の整備が進む
若者の伝統食の新形態への関心の高まりと共に、高雄市政府のイベント開催や若者へ市場などのスペースを販売場所として提供するといった取り組みが伝統食を新しい形態で提供することを後押ししている。歴史的な建物を保存し、観光資源として活用する取り組みの一つである「鹽埕第一公有市場」。70年以上の歴史ある「鹽埕第一公有市場」は、もと伝統的な市場だったが、風通しの悪さ、照明の暗さ、水漏れなど老朽化の原因から2022年に修復され、約8ヶ月かけて新たな市場として再生。自然の風や光が入るように設計されたモダンなデザインの市場には、若者が経営する創意工夫のある新形態のグルメや雑貨などの屋台が10軒以上入っている。
例えば、クラフトビールを販売する屋台やおばあちゃんから受け継いだ伝統的な米粉を原料とする「粿」という食品を数種類販売する屋台など、若者が新しい発想でグルメや雑貨などを作り出している。肉や野菜、惣菜などを売る伝統的な市場と異なり、実際の肉や野菜ではなく、肉や野菜の食品サンプルの手作りキーホルダーが置かれていたりする。市場内にパブリックスペースとして講演会や交流会、パフォーマンス等を行うイベントのスペースや一坪の簡単な映像やアートなどの展示スペースがあるところも特徴。2022年台湾設計展に合わせてこの場所で行われたイベントには、二日間で10万人が訪れるなど、市場が新たな観光スポットとして再生した。