2016年のプミポン前国王崩御により広がった悲しみと自粛ムードがありつつも、国内経済では個人消費が伸び、中間層も拡大しており、景気の上向きが期待されています。今や5,000社以上の日系企業が進出。タイ名物の屋台の撤去がバンコクを中心に進んでいますが、食トレンドも相変わらず続々と生まれています。ASEANの経済の中心であり、東南アジアでも先行事例が多いタイのトレンドランキングを紹介いたします。
スマホで決済 キャッシュレス社会へ移行中 |
2017年8月末、タイ中央銀行は主要銀行やクレジットカード会社と協力し、年内にもQRコードでの決済を導入すると発表。バンコク市内の一部の市場や小規模小売店、バイクタクシーでは試験的に導入を開始した。利用者は口座を持っている銀行のアプリをダウンロードすることでQRコードでの支払いが可能となる。店舗は銀行の店舗用のアプリをダウンロードし、QRコードを店頭に設置する。この他にも、2016年「LINE Pay」が、バンコクの高架鉄道BTSのプリペイドカード「Rabbit」と提携し、「Rabbit LINE Pay」をスタート。オンラインの支払いに加えて、Rabbitの提携店舗での支払いがスマホでできるようになるなど、オンライン決済できる場が増えている。
トレンドの背景
国を挙げてキャッシュレス社会への移行が進んでいる。2017年1月、国家主導の電子決済システム「Prompt Pay」が始動。携帯電話番号やID番号に紐づけられた銀行口座からスマホやパソコンで送金ができるシステムで、オンラインショッピングの利用が増える中、クレジットカードがなくてもオンラインで支払いができる。2017年6月の報道では「Prompt Pay」の登録者は2,800万人以上に上っている。「Prompt Pay」に続き発表されたQRコードでの決済は、送金に手数料がかからず、細かい現金の準備や釣銭の準備も不要。現金を持ち歩く必要がないため、安全だと当局はアピールしている。さらに買い手の口座から売り手の口座へ即入金されるため、その日の儲けを当日の生活費に充てることが多いバイクタクシーのドライバーなどにも受け入れられるのではという声も上がる。また、LINEはLINEスタンプを駅のキオスクで現金で購入できる端末を設置。クレジットカードを持っていない、オンラインでLINEスタンプを購入できない人も気軽に購入できる。さらにSAMSUNGが展開する「Samsung Pay」での支払いに対応する店舗も増えている。
食生活の中心は屋台からコンビニへ |
ファミリーマートは2017年、「ライフスタイル・ストア」というコンセプトの新店舗をバンコクに2店オープン。10月にオープンしたスクンビット通りの新店舗は「Family Mart×OPEN SPACE」を掲げ、2階にはWiFi完備のワーキングスペースやトイレがある他、カフェの「Segafredo」を併設。店内では温かい食事の提供、ベーカリー、生鮮食品の取り扱いもある。タイにはこれまでになかったスタイルのコンビニで「日本のコンビニのようだ」と歓迎されている。セブンイレブンでは、冷凍・冷蔵の弁当の種類を充実させている。また、「All Café」というコーヒースタンドを併設している店舗も展開。タイ人の食生活は外食・中食が中心だが、バンコクでは人々の台所と言われてきた屋台が、2017年初め当局により一部強制撤去された。そのため、食生活の中心は屋台からコンビニやフードコート、フードデリバリーなどに移行していくかもしれない。
トレンドの背景
タイでは外食・中食が中心で、食事の場もコンビニ、街の飲食店、屋台で購入する人が多く、2016年の1人当たり平均外食・中食の回数は月50回に及ぶ。中でもコンビニは消費者の利用回数が1人当たり月21回で、主な利用目的が食事の購入となっている(Nielsenの調査結果)。近年バンコクでは、「屋台は本当に有益なのか」という議論があり、不法な歩道の占拠や衛生面の懸念から撤去すべきという意見と、生活に欠かせないと擁護する意見がある。最近ではコンビニ弁当の充実やフードデリバリーなど、屋台以外の選択肢も増加している。
価値創造でECに対抗するショッピングモール |
2017年3月、高級ショッピングモール「Central Embassy」の最上階6階にオープンした「OPEN HOUSE」は「Co-living space」というコンセプトのこれまでにない新空間として注目を集めた。設計者は日本に拠点を置く「クライン・ダイサム・アーキテクツ」で、開放感溢れるスペースには緑が多数配置され、一面ガラス張りの窓からは明るい陽が射し込む。空間全体が大きな書店となっており、天井まで高く伸びる書棚にはアート系の貴重本から古本まで幅広く置かれている。そこにレストランやカフェ、ワークショップスペース、バンド演奏スペース、コワーキングスペースなどが同居している。入場は無料で、あちこちに置かれたソファで自由に書店の本を読んだり、レストランで食事をしたり、気ままにくつろぐことができる。ここ以外にも近年、ショッピングモールではレストランやダイニングなど、食事を楽しめるスペースを増やしたり、コワーキングスペースを設けるなど、買い物以外のアクティビティを提供する店舗が増えている。
トレンドの背景
近年ショッピングモールは買い物だけではなく、新しい発見や経験を得られる場所であることが求められている。その背景には、EC市場の拡大がある。現地紙『バンコクポスト』によると、2016年に初めて「オンラインショッピング」がタイ人がオンラインで行う行動の上位5位に入った。さらにタイ電子取引開発庁ではここ数年、ECの市場規模は年率10%前後で成長している一方、ECが小売市場全体の未だ1%程度しか占めていないことから、この成長傾向は今後も続くと見ている。現在は外資系のオンラインショップ「LAZADA」などの利用が多いが、Centralグループをはじめ多くの小売もオンラインショップを開設しており、利用者を増やしている。 ECの拡大を受けショッピングモールは、オンラインでは得られないサービスや経験、美容やフィットネス、レストラン、アクティビティができる場所を提供し、消費者を惹きつけようと努めている。
南国風味 タイブランドのクラフトビール |
クラフトビールブームがさらに進み、タイブランドのクラフトビールも数多く目にするようになった。タイの法律では小規模醸造業者による酒類の小売販売は禁止されており、ここ数年で数を増やした小規模醸造業者(クラフトビールメーカー)は、海外で委託醸造してタイ国内へ輸入し販売している。タイブランドのクラフトビールとしてはプーケットの「Full Moon Brewery」がオーストラリアで委託醸造しタイで販売する、ライチ風味のエールビール「CHALAWAN」やジャスミンライス風味の「CHATRI」が有名。この他、「Stone Head」には、バタフライピーの青い花を用いた青いビールやココナッツ風味のココナッツクリームエールなど、独特の風味のビールがある。レストランでもタイブランドのクラフトビールを置く店が増えている。スーパーマーケットやデパートでも気軽に購入できるようになった他、1月と6月にはクラフトビールのイベントが開かれタイブランドのビールが並んだ。
トレンドの背景
ビールは男性的で苦くて飲みにくいイメージがあるが、数年前から海外のクラフトビールやシードルが広く出回り流行すると、従来のビールとは違うフレーバーで、飲みやすくお洒落、女性でも抵抗なく手に取れるというイメージも拡大。タイ国内で密かにビールを醸造していた業者や、「Full Moon Brewery」のようにブリューパブで販売するためにビールを醸造してきた業者が、海外での委託醸造・輸入によって合法的に国内販売を始めた。タイブランドのクラフトビールだが、輸入品となるため一般的なビールより高い金額となってしまうが、スモールバッチのビジネスを応援する気持ちと物珍しさから手に取る人も多い。
産地の復興とテレビ番組の影響でドリアンがブームに |
タイ産の果物の輸出が伸びているが、特にドリアンは輸出量が増加している。タイ国内でもドリアンに関するイベントが行われた他、ドリアンスイーツが登場するなど、人気となっている。大手デパートCentralグループが政府観光庁と協力し、ドリアンが旬を迎える5~7月に開催される「ドリアンブッフェ」。2年目となる2017年は、バンコクに加えチェンマイやプーケットで開催された。また、ショッピングモール「Central Eastville」では、高品質で有名なバンコク近郊のノンタブリ県産のドリアンの品評会が行われ、最高30万バーツ(約90万円)の値がついたドリアンもあった。人気カフェ「After You」によるドリアンスイーツ専門店「After You Durian」が、ショッピングモールの「Siam Paragon」にオープン。ドリアンアイス、ドリアンもち米かき氷、ドリアンもち米トーストなどのドリアンスイーツを提供している。
トレンドの背景
タイのドリアンの中でも高品質を誇るノンタブリ県産のドリアン「ガーンヤーウ」が2011年の大洪水の影響で市場から姿を消していたが、近年復興を経て市場に出回るようになり、高価格で取引された。さらに、さまざまなコスチュームに身を包んだ芸能人が、正体を隠したまま歌唱力を競い合うタイで異例の人気を集めたテレビ番組「Mask Singer」シーズン1において、最後に優勝したタイのロックバンド「Room39」のボーカル、トムがドリアンのマスクを被っていたことも2017年にドリアンに注目が集まった要因と言われている。
■進むキャッシュレス
バンコクの高架鉄道であるBTS利用者が使用するSuicaのような「Rabbitカード」と、LINEの「LINE Pay」が提携し、「Rabbit LINE Pay」が誕生。現金を持ち歩かなくてもスマホだけで支払いできる場所が増加。ネット決済の利用も増え、銀行の閉鎖も相次いでいる。多くの人がスマホやタブレットを所持しており、導入されたばかりの「標準QRコード」とともにキャッシュレス化は加速していくだろう。
■拡大するEC市場と迎え撃つショッピングモール
「We love shopping」や外資系の「LAZADA」など、年10%の割合で成長を続けるタイのEC市場。今後もさらに成長は続くと思われるが、既存のショッピングモールは淘汰が進み、モールはECサイトに対抗して「コト消費」などリアルな場ならではのメリットを打ち出そうとしている。
■時代に合わせて変化しつつある食スタイル
バンコク名物の屋台が当局の方針で減少することになり、市民の外食・中食の中心が徐々にコンビニやフードコート、フードデリバリーに流れつつある。また、クラフトビールのトレンドが進化し、タイの特色を生かしたオリジナリティ溢れるクラフトビールも人気だ。このように、時代の外的要因によって食も変化しており、2018年度も既存の食スタイルが変化していくと考えられる。
TNCアジアトレンドラボでは、こうした動きを2018年も引き続きウォッチしてまいります。他国のトレンドランキングの更新もどうぞお楽しみに。
■調査概要調査方法:TNCアジアトレンドラボ、現地ボードメンバーを中心としたグループインタビュー、およびライフスタイル・リサーチャーによる定性調査 調査時期:2017年11月 調査対象者:バンコクに5年以上居住する男女、かつアッパーミドル以上の生活者、10代後半~20代前半の、トレンドに敏感な層 調査実施機関:株式会社TNC(http://www.tenace.co.jp/)および海外協力会社 ■株式会社TNC 各国の高感度層で構成される現地ボードメンバーと共にグループインタビューやリサーチを定期的に行い、ウェブサイトで情報発信や分析を行う『TNCアジアトレンドラボ』を2015年8月よりサービス開始。また70カ国100地域在住500人の日本人女性ネットワーク『ライフスタイル・リサーチャー』を主軸とした海外リサーチ、マーケティング、PR業務を行う会社です。現地に精通した日本人女性が、その国に長く暮らさないとわからない文化や、数字に潜む意味をひもとき、日本人が未だ知らない斬新なモノやコトを探すインバウンズ、日本企業が進出する際のベースとなるリサーチ・アウトバウンズや、現地の人たちの暮らしぶりや生活習慣のレポートから、海外におけるヒント探し、市場レポートなど幅広く対応します。また、レポートに基づいた視察のアテンドも行っております。 ■問い合わせ先 株式会社TNC TNCアジアトレンドラボ編集部 木下・濱野 TEL:03-6280-7193 FAX:03-6280-7194 お問い合わせフォーム:https://www.tnc-trend.jp/about/#contact |