アジア最速のスピードでインフレが進んでいるフィリピン。インフレ率増加の背景には、3年目のドゥテルテ政権が導入する、包括的税制改革などにより、燃料や砂糖、飲料、たばこの増税などが影響しています。食品や燃料などの価格が上昇しており、支出を控える傾向にもあります。一方で地方都市の開発や交通網の整備も徐々に進み、2020年末にはマニラ沿岸部に世界最大規模のIKEAが出店予定というアナウンスも話題になっているフィリピンのトレンドランキングです。
Netflixにフィリピン発のインディーズ映画採用 |
アメリカの映像ストリーミング配信大手・Netflixが2018年、フィリピン映画を初めてネット配信に採用した。国の天然記念物に指定されているフィリピンワシを誤って猟銃で殺した少女とその父親の軌跡を描いたミカエル・レッド監督の『BIRDSHOT』を3月26日から、またドゥテルテ政権が進める麻薬撲滅戦争の実態を描いたブリランテ・メンドーサ監督の『AMO』を4月9日からそれぞれ配信した。
『BIRDSHOT』は第90回米アカデミー賞の外国映画部門のフィリピン参加作品でもあり、レッド監督は2018年3月の大阪アジアン映画祭でも別の作品で「来るべき才能賞」を受賞している。メンドーサ監督はカンヌ映画祭で最優秀監督賞にも輝いたフィリピンインディーズ映画界の巨匠だ。これらインディーズ映画が大手ネット配信でも紹介されるようになったことは、作り手にとってさらなる追い風となっている。
トレンドの背景
情報通信業界の調査会社によると、フィリピンのインターネット利用者は6,700万人と世界12位につけている他、FacebookなどのSNS利用時間は、1日当たりほぼ4時間と世界でもトップに位置している。また、映像ストリーミング配信サービス・Netflixの利用者もネット利用者の6割に達すると言われており、今や多くのフィリピン人が映画館だけでなくネットでの視聴を重視している。
このNetflixにフィリピンのインディーズ映画が初めて相次ぎ配信されたことは、国内の関係者にとって大いなる追い風になっているようだ。フィリピンインディーズ映画は、映画祭「シネマラヤ」から徐々に世に広まるようになり、メンドーサ監督のカンヌ映画祭受賞などを経て海外でも認知度が高まってきている。海外の視聴者を意識してか、最近では英語字幕が必ず入るようになってきた。今回のストリーミング配信でさらにインディーズ映画の普及が進むだろう。
インドネシア系コンビニが急拡大 |
フィリピンの小売業界で最も伸びているとされるコンビニ。台湾系ホールディングスのフィリピン・セブン社のセブンイレブンが先行し、日系のミニストップが追うという2強時代がしばらく続いたが、最近では日系のファミリーマートやインドネシア系のアルファマートも参入し、地場コンビニも含めてコンビニ戦国時代の様相を帯びてきた。
中でもアルファマートはフィリピンのモール運営最大手の「シューマート(SM)」グループと提携して2014年にフィリピンに進出。モール内に直接出店する方式で特に最近1年間で首都圏で急激に店舗数を増やしている。2018年4月には首都圏だけで400店に達し、今後は地方にも出店すると発表。インドネシアのチェーンを交えたコンビニ戦争が今後、首都圏から地方にも波及することは確実だ。
トレンドの背景
フィリピンの小売業界は、各住宅地にある「サリサリストア」と呼ばれる小規模雑貨店や公設市場、スーパーマーケット、モールなどが従来から住み分けされている。しかし、現在最も伸びているのはコンビニ。特に首都圏で増えているのがインドネシア系のアルファマートだ。
同社はモール国内最大手のSMグループと提携し、モール館内に直接出店することから得られる集客の相乗効果や冷蔵・冷凍食品を置くなど、他のコンビニチェーンにはないサービスを展開し、顧客を増やしている。インドネシアのブランド製品は、インスタントヌードルの「Indomie」が2018年8月からセブンイレブンで販売されるなど、複数の大手小売業者がすでに国内販売していることもあるが、まだまだ認知はされていなかった。アルファマートの拡大で今後、インドネシアブランドに対する認知度も徐々に高まると考えられる。
大統領の禁煙令などで電子たばこへの移行が進む |
フィリピンではドゥテルテ大統領が2017年に禁煙令を発令し、1年間で喫煙場所に関する規制がこれまでより厳格化されてきている。また、2018年1月1日から施行された税制改革法第1弾によるたばこ税の大幅引き上げでたばこの市販価格が上昇。この結果、禁煙する人が増える一方で、電子たばこへの移行も顕著に進んできた。紙巻きたばこに比べ、健康被害も少ないと一般に言われており、2019年以降、電子たばこに切り替える人も増える見込みだ。
電子たばこ製品の小売業者によると、現在人気が高いのは「Juul」という米国製の電子たばこで価格帯は3,500~3,750ペソ(約7,300~8,000円)ほど。しかし2018年に入り、これまで食品薬品庁などへの製品登録もされずに市販されるなど、ほぼ野放し状態だった電子たばこに対する規制強化を求める声が政府機関や市民団体などから急速に高まってきている。
トレンドの背景
ドゥテルテ氏が大統領に就任すると、公約通りこれまでより厳しい禁煙令を施行した。この大統領令により、基本的に屋内での喫煙がほぼ不可能となり、商業ビルやモール、レストランなどでの喫煙も屋外の喫煙場所に限られるようになった。税制改革法第1弾による各種物品税の大幅引き上げの対象にもなり、たばこの市販価格が今後数年間にわたり段階的に引き上げられることも確実だ。これにより、健康志向の高まりや今回の禁煙令の取り締まり対象から除外されていることなどから、電子たばこに移行する人が増えている。
しかし、野放しとなっている電子たばこの規制を求める声も高まり、厚生省は2018年4月に「電子たばこはニコチン代替療法にはならない」という声明を出した。規制すべきかを問う公聴会も開始されており、危機感を持った業者らは2018年になり業界団体を結成、電子たばこの安全性やニコチン代替になることを改めて訴えたり、国会へのロビー活動も強化している。
電動トライシクルの普及が本格化 |
排ガス規制を強化するための公共交通機関近代化政策の一環として、政府はこの1年間で電動トライシクル(三輪乗り合いオートバイ)の導入に本腰を入れている。2018年1月にはエネルギー省がアジア開発銀行と提携して、2017年のイスラム過激派占拠事件で荒廃したミンダナオ地方マラウィ市に寄付したのを手始めに、6月にはラスピニャス市など首都圏4市に合計900台を寄付することを決めるなど、電動トライシクルの導入を一気に進めようとしている。
2019年から本格的に実施する予定のジープニー(小型乗り合いバス)の電動化や排ガス規制適合エンジンへの転換事業を控えて、政府はまず費用も安く済むトライシクルの電動化に注力することで、2019年以降の交通機関近代化事業に弾みをつけたい意向だ。
トレンドの背景
大気汚染防止法に基づく排ガス規制がなかなか進まないフィリピンだが、ここにきてアジア開発銀行など国際金融機関及び外国政府の融資支援の強化や電動自動車・バイクの製造業者らによるモデル車両の開発、製造発表が相次いだことにより、政府もようやく公共交通機関の近代化事業に本腰を入れている。
庶民の足として全国に普及しているトライシクルはジープニーよりも台数が多いが、電動車両の費用が45万ペソ(約95万円)ほどとジープニーの半分以下で済むことや製造業者も多いことなどから導入が容易だとして、この1年間で普及が進んでいる。これまでは主に首都圏のマニラ市やマカティ市、タギッグ市など観光地区や商業中心地での導入が先行したが、今後は政府の助成金制度もあり、一般住宅地での普及も徐々に進むと見られている。
ローストチキンチェーンが躍進 |
現在、1日に2~3軒の割合でフィリピン全土に店舗網を急拡大させているのが、ローストチキンブランド「Chooks To Go」などを運営する「Bounty Agro Ventures」社だ。従来のローストチキンチェーンとは違い、タレがなくても濃厚な甘みやペッパー風味がチキン全体に浸み込んでいることが受け、一気に人気が高まった。
もともと養鶏場経営会社だったこともあり、値段の安さや店舗網の多さから売り上げを伸ばし、今や3つのブランドの下に全国に2,000店を超える店舗網を構えるフィリピンチェーンブランドの期待の星とも言われる。2018年には「Maro」や「Snok」など3つのチェーンブランドを新たに追加した他、ニュージーランドの鶏肉加工最大手の買収やインドネシアへの進出を発表するなど、さらなる拡大路線を取っている。
トレンドの背景
もともと養鶏場経営会社だった「Bounty Agro Ventures」社は、鶏肉加工品などを大手スーパーに大量に卸すなど養鶏ビジネスで成功を収めていた。しかし、ASEAN経済統合に基づく貿易自由化の進展に伴い、タイ産鶏肉加工品などの海外からの安い製品の流入を懸念し、新しい販路として目をつけたのが、自らローストチキンのチェーン店を経営するという戦略だった。
国民食の1つであり「レチョン・マノック」と呼ばれるローストチキンは「Andok’s」や「Baliwag」などの有名チェーンがすでにシェアを拡大し、バスターミナルや市場、駅前など庶民が仕事帰りに立ち寄りやすい場所に小店舗を展開。商品を持ち帰る中食スタイルで定着していた。その販売スタイルを踏襲し、さらに安値でしかも濃厚な味つけがされているローストチキンを売りに出した同社の販売戦略がヒットし、店舗網を急激に増やしている。
■イン&アウト、グルーバルに展開する
コンテンツや企業戦略
フィリピンインディーズ映画人気は、カンヌ映画祭などで賞を受賞した監督の作品がNetflixとの提携によって広く国内で見られるようになり、注目されるようになった。2位のインドネシア系コンビニの急拡大は、モールを数多く展開するSMグループとの提携により、モール内に店舗を構えることで認知度を高め顧客を獲得している。5位のローストチキン店のチェーン展開は、鶏肉生産者としての値段の安さや販売網を活かすことで広がりをみせている。いずれも提携や拡大によって認知度を高めている。
■“強い政府”主導で変化するライフスタイル
4位の電動トライシクルの普及は、排ガス規制によって公共交通機関の近代化政策が執られたことによるもの。電動トライシクルは既存のジープニーの電動化や排ガス規制適合エンジンへの転換よりコストが安いことから手始めに導入された。3位の電子たばこへの移行はドゥテルテ政権の禁煙令による規制とたばこ税の大幅な引き上げがきっかけとなった。ドゥテルテ政権という強い政府による規制や増税によって様々な変化が生じてきている。
TNCアジアトレンドラボでは、
こうした動きを2019年も引き続きウォッチしてまいります。
他国のトレンドランキングの更新もどうぞお楽しみに。
■調査概要調査方法:TNCアジアトレンドラボ、現地ボードメンバーを中心としたグループインタビュー、およびライフスタイル・リサーチャーによる定性調査 調査時期:2018年10~12月 調査対象者:マニラに5年以上居住する男女、かつアッパーミドル以上の生活者、10代後半~20代前半の、トレンドに敏感な層 調査実施機関:株式会社TNC(http://www.tenace.co.jp/)および海外協力会社 ■株式会社TNC 各国の高感度層で構成される現地ボードメンバーと共にグループインタビューやリサーチを定期的に行い、ウェブサイトで情報発信や分析を行う『TNCアジアトレンドラボ』を2015年8月よりサービス開始。また70カ国100地域在住600人の日本人女性ネットワーク『ライフスタイル・リサーチャー』を主軸とした海外リサーチ、マーケティング、PR業務を行う会社です。現地に精通した日本人女性が、その国に長く暮らさないとわからない文化や、数字に潜む意味をひもとき、日本人が未だ知らない斬新なモノやコトを探すインバウンズ、日本企業が進出する際のベースとなるリサーチ・アウトバウンズや、現地の人たちの暮らしぶりや生活習慣のレポートから、海外におけるヒント探し、市場レポートなど幅広く対応します。また、レポートに基づいた視察のアテンドも行っております。 ■問い合わせ先 株式会社TNC TNCアジアトレンドラボ編集部 濱野・木下 TEL:03-6280-7193 FAX:03-6280-7194 お問い合わせフォーム:https://www.tnc-trend.jp/about/#contact |