70年の長きに渡り、国王として公務に励まれ、国民から「父」として慕われたラーマ9世・プミポン国王が10月13日、88歳で逝去され激動の年となったタイ。2016年12月現在もイベントなどにおいて自粛ムードはありますが、東南アジアの先進都市であるバンコクは、今年もさまざまなトレンドが生まれています。新たな鉄道路線・パープルラインが開通し、バンコク郊外にも発展の波が訪れているタイのトレンドを紹介いたします。
デリバリーも盛況・クリーンフード&コールドプレスジュース |
タイでは数年前から続く健康ブームが2016年も健在。今年は特に、デパートの店頭に並んだ色とりどりのコールドプレスジュースやクリーンフードが注目を集めた。普段の食事に変えてジュースを摂取する、デトックス・プログラムを提案する店が多い。現在、専門店が、店頭のほか、FacebookやLINEを使って販路を拡大中。コールドプレスジュース専門店の「Make it happen」は、1本130バーツ(約390円)、2日分の12本や3日分の18本のデトックスセットがそれぞれ1,400バーツ(約4,200円)、2,050バーツ(約6,150円)と、安くない金額ながら人気となっている。また、クリーンフードやヘルシーフード専門のデリバリー店も増加。クリーンフードとは、新鮮で清潔な素材を使った食事で、添加物や化学調味料、保存料などを使用せずに調理された、栄養価(5大栄養素を含むもの)の高い食事を指す。バンコク在住者はあまり自炊することがなく、外食かデリバリーでクリーンフードを摂取するという人が少なくない。オーガニック食材を使用し、安心・安全・健康に配慮した弁当を自宅まで届けてくれる。健康志向のオフィスワーカーを支える商品やサービスが話題となった。2016年には、オーガニック食材やキノアなどのスーパーフードを取り入れたメニューを提供する「August」や、ヴィーガンをコンセプトにした「Veganerie」などのレストランがオープンしている。
トレンドの背景
欧米のセレブが取り入れて、世界中で流行したコールドプレスジュースは、美意識が高く、見た目を重視するタイ人女性の間でも2年ほど前から注目を集めていた。また、クリーンフードやドリンクを取り入れる意欲が高まる一方で、仕事に遊びに忙しいバンコク在住の若者には、きちんとした食材を調達し、自炊する時間も習慣もなかった。しかし、健康でいたいという意識があり、その需要に応えるように、手軽にクリーンフードやコールドプレスジュースを手に入れられるデリバリーサービスが拡大。20~30代の女性を中心に人気であるが、男性の中にもダイエット目的でクリーンフードを摂る人が少なくない。
先進的なコミュニティモール「THE COMMONS」 |
2016年2月、タイのアッパーミドル~富裕層、外国人駐在員などが数多く住むトンローの閑静なエリアに新たなコミュニティモール「THE COMMONS」がオープン。THE COMMONSを手がけるのは、バンコクのカフェブームを牽引するHIPなカフェ「ROAST」のオーナー・TEA氏。地域住人が健康的で充実した生活を送れるようなコミュニティづくりを目指して開業した。 地域住人のコミュニティづくりがコンセプトであるため、モール中央は訪れる人が心地よく過ごせるよう、吹き抜けの半アウトドア空間になっており、随所に緑をあしらい、最上階には芝生を敷くなど、自然の中にいるような感覚で楽しめる。週末には音楽フェスをはじめ、さまざまなイベントも行われる。THE COMMONSに入居する店舗はTEA氏が呼びかけた、品質の良い商品やこだわりのメニューを提供する店ばかり。モールのフードコートには世界中のクラフトビールを楽しめる「The Beer Cap」を中心に、本格BBQやグルメバーガーを提供する「Meat and Bones」、スイーツショップ「Holy Moly」、身体に良いスムージーやドリンクが人気の「Twist smoothies, juices & more」、創作飲茶の「Xiao Chi」などが入り、バンコクで話題の飲食店のメニューを一ヵ所で味わうことができる。
トレンドの背景
バンコクには大型のモールも多数あるが、近年、買物や食事の場という以上に、新しい「経験」や「発見」を求める場の創設というコンセプトで展開する、小規模店舗が入ったコミュニティモールが続々とオープンしている。THE COMMONSは、大手チェーン店を一切入れず、まだあまり認知度はないがこだわりを持った、またサスティナブルな活動にも積極的な小規模店をテナントに入れ、広いコミュニティスペースをとり、地域の人々の健全な生活を支えたいという思いが詰まった新スタイルのモールとして登場し、注目を集めている。今後、移り替わりの激しいバンコクで、どのように地域に根差していくのか、注目される。また、定期的または不定期にポップアップで開催される屋外マーケットも、大量生産品ではなくハンドメイドのアクセサリーや洋服、オリジナルの食やクラフトビールなどの扱いが増えている。シーナカリンやラチャダーで定期的に開催される「Train Night Market」、トンローエリアで不定期に開催される「TGIF Market」などに、多くの若者がハンドメイドのアイテムや、本格BBQやグルメバーガーなどの創意工夫を凝らした店を出店している。さらに、タイ王室の保養地としても知られるフアヒンにも「Cicada Market」が誕生するなど、バンコク以外にもこのような動きが広がってきている。
SNSで拡散する地方発のファッショントレンド |
“ม๊าเดี่ยว” อภิเชษฐ์ เอติรัตนะ(”マディアオ” アピチェ エティラタッナ)、通称・マディアオ君はタイ東北地方出身の17歳。身近にある草や葉、蚊帳や鳥かごなどを取り入れた独自のファッションをFacebookやInstagramなどのSNSを通じて発信し、フォロワー数を増やした(Facebookのフォロワー数:約17万、Instagramのフォロワー数:約60,000)。さらにTIME誌など、欧米メディアにも取り上げられ、世界的にも注目を集めている。2016年は、タイ人デザイナーとオリジナルブランド「KOxMA」を立ち上げるなど、活動を本格化。9月にはSiam Centerでファッションショーを行い、10月後半には同店にポップアップストアも出店。マディアオ君の他にも、タイ西部地方のカレン族の男子中学生がLouis Vuittonのモデルに起用されてニュースとなった他、タイ東北地方出身の女性が、田畑で欧米人男性と撮影したプレウェディング写真が話題となるなど、タイ地方発のファッションに注目が集まった。
トレンドの背景
世界的に注目されるデザイナーやモデルが生まれるのは、これまでバンコクのみと言っても良いほど一極集中であった。しかし、2016年には地方の比較的貧しいエリアからもファッション関連のトレンドが生まれた。歓迎とともに意外性を持って受け止められ、より拡散した。インターネットやSNSが浸透したことで、環境や場所に関わらず自身のファッションやライフスタイルを発信し、多くの人に注目され、大成する機会が広がった。マディアオ君の華々しい成功は、地方に秘められた才能や豊かさの可能性を示す例としても大きな話題になった。
新エクササイズ&プレイスポットとしてトランポリン施設に注目 |
2015年末、オーストラリア発のトランポリン施設「BOUNCE」がラチャダーのコミュニティモール「THE STREET」内に登場。物珍しさからトランポリン人気が高まり、BOUNCEはプロンポンのショッピングモール「The Emquartier」にもオープン。広々としたスペースに、Free-Jumping、The Wall、Slam Dunkなど、さまざまな種類のトランポリンが設置され、訪れた人は思い思いに飛び跳ねて遊んだり、エクササイズを行うことができる。タイ人の他、在住外国人にも「最高に楽しい!」と好評で、リピーターも多い。1時間の利用料金は、子ども390バーツ(約1,170円)、大人490バーツ(約1,470円)。ネットで事前予約すると、40バーツ(約120円)割引などのプロモーションも行っている。パーティルームを備えており、子どものバースデイパーティ会場としても人気を高めている。また、BOUNCEと類似のトランポリン施設「Amped Trampoline Park Thailand」がオープンするなど、大人のエクササイズの場、子どものプレイスポット及び情操教育の場としてトランポリン施設に注目が集まっている。
トレンドの背景
健康志向の高まりから、近年では欧米発のジムやサイクリングが定着。トランポリン施設も、単に子どもの遊び場というだけでなく、トレンドに敏感な人は、フィットネスジムとして利用している。トランポリン以外にも、ポップミュージックがかかった屋内で目新しい器具を使ったエクササイズができるフィットネスジムは、セレブを中心に人気で、サーフィンの動きを取り入れたサーフセットや、クロスフィットといった欧米で注目されたプログラムが時間差なく入り、そこでエクササイズをすることがトレンドになっている。
タイ初・日本スタイルの体験型農園 |
バンコクから車で2~3時間ほどのラチャブリ県に、2015年オープンしたタイで初となる日本スタイルの体験型農園「CORO field」が人気を集めている。バンコクそれほど遠くない場所にありながら、整然と整備された広大な農場を見学し、農業体験やBBQなどができることから、若者やファミリー層を中心に休日を過ごすスポットとして受け入れられている。園内で栽培された日本のメロンを1個500バーツ(約1,500円)で購入可能。また、園内にはカフェ「CORO Cafe」が併設され、ヤキソバなどの日本食やメロンヨーグルトやメロンサラダ、メロンに鰹節をまぶした「MELON KATSUO」といったオリジナルメニューが味わえる他、多肉植物の寄せ植えやトートバッグづくりなどのワークショップも行っている。
トレンドの背景
健康志向が広まる中、バンコクでは2014年頃から、マンションのベランダで野菜の栽培を行う人が現われるなど、安全な食への関心が高まっている。CORO field以外にもバンコク郊外に、子ども向けの体験型農場「Farm de lek」や「ครูธานี หอมชื่น(クルータニー・ホームチューン)」など、都心からほど近いエリアに体験型農園が登場し、エコに敏感な若者や安心安全な食、子どもの食育を考える親世代が子ども連れで訪れている。2015年のトレンドランキングでピックアップした「グリーンハウスブーム」や「ファーマーズマーケット」などの流れがバンコクに広く浸透してきていることが伺える。
■リバーサイドや中華街、郊外の開発が加速
バンコクのチャオプラヤ川沿いには2016年12月現在、新たなランドマークとなる「ICONSIAM」が2017年の開業を目指し、建設が進められている。タイ初出店となる高島屋、ショッピングモールや高級レジデンス、東南アジア最長となる「水と火」のアトラクションが併設されるなど、オープン前から話題となっている。また、バンコクの中華街・ヤワラートに「Tep Bar」や「Teens of Thailand(TOT)」といったシグニチャーバーができたことで、HIPなバーやカフェが増えており、2017年も注目のエリアになっていくことが予想される。さらに、パープルラインなどの新たな鉄道路線が開通したことでバンコク郊外のショッピングモールやコンドミニアム建設も増加することが見込まれる。
■健康志向とエコ意識の高まりから生まれる
新ビジネス&スポット
2015年から引き続き、健康やエコ意識が高まり、浸透してきている。クリーンフードやコールドプレスジュースのデリバリー、サスティナブルでコミュニティを大切にするモール「THE COMMONS」、トランポリン施設、体験型農園など、今回ランクインしたトレンド事例の多くが、健康&エコ意識から求められて生まれたトレンドだと言える。2017年以降もこの流れは継続していくことが予想される。
■バンコク一極集中型から
地方にも注目が集まるように
スマートフォンの普及やSNSの利用により、マディアオ君の例のように地方発のトレンドやビジネスがタイ国内だけでなく世界にも発信できるようになった。タイの地方都市がバンコクのように発展する、とはならないが、バンコク在住者のみならず、地方各地から発信される情報はこれまで以上に注目されると考えられる。
TNCアジアトレンドラボでは、こうした動きを2017年も引き続きウォッチしてまいります。他国のトレンドランキングの更新もどうぞお楽しみに。
■調査概要調査方法:TNCアジアトレンドラボ、現地ボードメンバーを中心としたグループインタビュー、およびライフスタイル・リサーチャーによる定性調査 調査時期:2016年11月 調査対象者:バンコクに5年以上居住する男女、かつアッパーミドル以上の生活者、10代後半~20代前半の、トレンドに敏感な層 調査実施機関:株式会社TNC(http://www.tenace.co.jp/)および海外協力会社 ■株式会社TNC 各国の高感度層で構成される現地ボードメンバーと共にグループインタビューやリサーチを定期的に行い、ウェブサイトで情報発信や分析を行う『TNCアジアトレンドラボ』を2015年8月よりサービス開始。また70カ国100地域在住500人の日本人女性ネットワーク『ライフスタイル・リサーチャー』を主軸とした海外リサーチ、マーケティング、PR業務を行う会社です。現地に精通した日本人女性が、その国に長く暮らさないとわからない文化や、数字に潜む意味をひもとき、日本人が未だ知らない斬新なモノやコトを探すインバウンズ、日本企業が進出する際のベースとなるリサーチ・アウトバウンズや、現地の人たちの暮らしぶりや生活習慣のレポートから、海外におけるヒント探し、市場レポートなど幅広く対応します。また、レポートに基づいた視察のアテンドも行っております。 ■問い合わせ先 株式会社TNC TNCアジアトレンドラボ編集部 木下・濱野 TEL:03-6280-7193 FAX:03-6280-7194 お問い合わせフォーム:https://www.tnc-trend.jp/about/#contact |